Laizthem



□□ webNovel

・「アカイイシ、アキノイシ〜東方赤秋石」(東方)


登場人物
アリス・マーガトロイド
(ありす・まーがとろいど)
……七色の人形遣い。
霧雨魔理沙
(きりさめ まりさ)
……普通の魔法使い。
森近霖之助
(もりちか りんのすけ)
……香霖堂店主。
伊吹萃香
(いぶき すいか)
……呑んだくれの鬼。
八雲紫
(やくも ゆかり)
……境界の妖怪。
博麗霊夢
(はくれい れいむ)
……結界の巫女。

(あき)
……生まれることの無かった存在。


 昼下がりの午後。何の変哲もなく、いたって普通の午後の森。
 そこに居るのは、二人の魔法使い。
 霧雨魔理沙と、私、アリス・マーガトロイド。
 二人の魔法使い、それ自体には違和感はない。でも、私達が見つけたモノには、違和感があった。
 いえ、これは違和感なんてものじゃない。
 これは、何?
 それは、何故此処にあったんだろう?
 こんなにも容易く、何故こんなところに?
「まぁ、私の日ごろの行いが良い所為だな」
「言ってなさい」
 それは、赤。
 綺麗な、朱。
 美麗な、紅。
 アカイイシ。
「ルビー?」
「には、見えねぇな。鮮やか過ぎる」
 と言うよりも、暗過ぎる。
 キレイだけど、コワイイロ。
「霊夢に似合うんじゃねぇか? あるいは、レミリアに」
「いえ、合わないわね。霊夢に、と言うよりも、この世界の、誰にも」
 誰にも、この色は似合わない。
 真紅、深紅、いや、侵紅。
 この色は、幻想郷には存在しない……。
「凄い言いようだな。とすると、なんだ。これは、この世界の外からやってきたとでも言うのか?」
 だから――侵紅。
 侵入してきた紅。
 だから、これは、この物体は……。
「気を付けなさい魔理沙。災いが、起こるわよ」
「こんな不吉な色なのにか? おいおい、冗談きついぜ。いくらお前でも、言っていい冗談と悪い冗談が……」
「不吉な色、だからよ。これは、冗談なんかじゃない」
 私の真剣な物言いに。
「……本当なんだな、アリス」
 魔理沙も少しばかり深刻になった。



 事の始まりは、何だったっけ?
 確か、何気ない一言だった気がする。
「よう、アリス。秋を集めに行こうぜ」
 そう、また魔理沙が、例によって馬鹿なことを言ってきたんだったわ。
「はぁ? 何言ってるの?」
「いや、ほら、あれだ。どっかの幽霊がこないだ春を集めてただろ。なら、秋も集められるんじゃないかってさ」
「魔理沙、貴女、馬鹿でしょう」
 まぁ、魔理沙の馬鹿は、今に始まったことじゃないけど。
「何言ってんだよ。私は普通だぜ」
 はいはい、と、軽く促し、本題を聞くことにする。
「で、具体的に何するのよ」
 秋集め。春度と似たように、秋度というものかしらね。
「秋っぽいものを集める」
「飽きっぽいもの? 貴女のこと?」
 また頓珍漢なことを。
「おいおい、私は秋っぽくないぜ」
「知ってるわ」
 蒐集家という存在は、基本的には飽きっぽくない。ただ、自分の関心がある分野に関してだけではあるけれど。
「ってわけでさ、行こうぜ」
 魔理沙の、その屈託のない笑顔に。
 とくん――
 私の中の、何かが脈打った。
「な、何でよ。何で私が、貴女の誘いなんかを……」
 そ、そうよ。なんで、私なんかを……。いつもみたいに、霊夢じゃなくって、私だなんて。
 嬉しい反面、どこか、疑心暗鬼に陥ってしまう。
「永夜事変の時は、私が誘いに乗ってやっただろ。だから、今回はアリスが乗ってくれよ」
 ……それだけの、こと? ……そう、よね。
 嬉しい反面、何故かがっかりする私が居た。なんで?
「……まぁ、いいわ。付き合ってあげるわよ。でも、いいこと。借りがあるから、だから付き合ってあげるのよ。解った?」
「あはは。まぁ、そうだな。借りは返してもらわなくちゃな」

 そして、私達は秋っぽいものを探しに出かけた。
 ちなみに、私が飽きっぽいもの≠ナはなく秋っぽいもの≠セと気付いたのは、魔理沙がどんぐりやら松茸やらを採ってきたからであった。
 まぁ、何はともあれ今晩のおかずは決定した。

 そして、今に至る。
「しっかし、森のど真ん中にあるなんて、不自然と言えば不自然だよな」
 私にも、そして魔理沙にも、此れが何か解らない。いや、石だということは解るけど、でも、だからこそ、此れが何か解らない。
 こんな石、今まで読んだどの魔道書グリモワールにも載っていなかった。
「誰か知ってそうなやつっていうと、香霖あたりか」
「若しくは、……………あの図書館の魔女あたりね」
 魔理沙に対抗したく、心当たりを思い浮かべたら、あの魔女しか出てこなかったので、少し言うのを躊躇ってしまった。
「あー、パチュリーね。まぁ、そうだな」
 何故か魔理沙も歯切れが悪い。
「? なによ、歯切れが悪いわね。あの子と友達じゃなかったの?」
 私と違って。
「いや、まぁ、そうなんだけど、……」
 ちらっと、こっちを見て。
 な、何よ……。
「ほら、香霖なら、使用法は解らなくても、それが何かくらいは必ず解るだろ。パチュだって知らないかもしれないんだから、その方が確実だ」
 何で避けるのかしらね? 喧嘩でもしたのかしら? ……まぁ、私には関係の無いことだけど。
「ん。まぁ、そうね」
 関係ないから、私も素直に魔理沙の提案に賛成する。
「よし、じゃあ香霖堂へ行こうか」


 そして、やって来たは香霖堂。
「これは、秋だな」
 診るなり、香霖堂店主、森近霖之助はそう言った。
「はぁ? おい香霖よ。終に狂ったか」
 私も同意見。秋っぽいものを探して、秋が見つかったなんて、そんなの出来すぎた笑い話じゃない。
「ぼくは狂ってなどいない。見たまんまを言ったまでだ」
 しかし、店主の目は至って真面目だった。
 え? 本当に?
「これが、秋?」
「そうだ。厳密に言うと、秋を凝縮した結晶だがね」
 それが何故、こんな禍々しい色をしているの?
 秋は、別段禍々しい季節なんかじゃない、はず。
「だが、一つ言っておこう。これは、幻想郷の秋ではない」
「え?」
「何だって?」
 この世界の、秋ではない。それは、最初に思った通りだけど……。
 なら、何処から?
 そもそも、何故?
「それに、此れは、なんだか、嫌な感じだ」

 結局、香霖堂で解ったことは、これが幻想郷以外の秋だということだけだった。
「幻想郷以外の秋。これも一種の異変かしらね」
「あー、そう思うんなら霊夢んとこに行くか? 異変といえばアイツだろ」
 霊夢。魔理沙は、やっぱり霊夢を頼るんだ。私なんかじゃ、やっぱり役不足……なのね。
「……そうね。霊夢のところに行くのは賛成。だけど、霊夢に押し付けるようなことはしないわ」
 でも、私だって、逃げはしない。
「そらご立派なことで」
 だから魔理沙。
 少しは私を、頼って。


 博麗神社。
 いつもの様に縁側に座って暢気に茶を啜っている紅白を発見。石を投げつけてやったらあっさりと避けられてしまった。流石は霊夢。弾幕も避ける女。
「魔理沙ね。こんな馬鹿なことするのは。弾幕ならいざ知らず、こんな石ころが当たるわけが無いでしょう」
 石を投げたのは私なのに。霊夢まで、直ぐに魔理沙の名前が出てくる。なによこれ。何もしてないのに、もう私が道化みたいじゃない。
「おいおい、此れは秋の石なんだぜ。もうちょっと大切に扱えよ。それに投げたのはアリスだ」
 霊夢が投げ返してきた石を、何ともなしにキャッチする魔理沙。なんだか、早くも気分が滅入る。一生に一度有るか無いかの魔理沙からの誘いなのに……。
「アリス、後で覚えときなさいよ。っていうか、何持ってきたって?」
「だから、秋を持ってきたんだよ」
「はぁ? 秋を持ってきた? 魔理沙もいよいよ狂ったか」
 そう言って、御幣を構える霊夢。祓う気だ。
「私は普通だぜ。それよりも霊夢、秋だぜ秋。この石が秋だって言うんだよ香霖は」
「霖之助さんが? なら、本当なの?」
「だから、さっきからそう言っている。何故私の言葉だと信じない」
「いや、そりゃ、魔理沙だし」
 ……二人でどんどん話が進んでしまう。私と魔理沙で霊夢のとこに来たのに、いつの間にか、私はオマケみたいな構図になっている。
 不味い。これは不味いわ。
「でも、これ、具体的に何が異変なのよ」
「いや、それがな、その」
「解らないのよ。これが、何か」
 私はここぞとばかりに発言した。
 でもまぁ、これが目的で霊夢のところに来たんだし。
「だから、霊夢にも意見をもらおうと思って。ねぇ、霊夢は、どう思う。何故、幻想郷以外の秋が、こんな形で幻想郷に在るのか」
「そ、そうねぇ。そう言われてもねぇ……」
 やっぱり、簡単には答えは出ない。
「でも、世界の外ってことなら、紫に訊けばいいんじゃない?」
「おお、流石霊夢。あのスキマババァに訊けばいいなんて、思いつかなかったぜ」
 魔理沙ほど口は悪くは無いが私も素直に関心の言葉を上げた。
「あらゆる境界を操る程度の能力。確かに、一番異世界に通じているのは紫ね」
「伊達にババァじゃないってこった」
「その辺にしておきなさい。殺されるわよ」
「何言ってるんだよ。あのスキマを庇うなんて霊夢らしく」
「紫、今うちに居るのよ」
「え?」
 魔理沙の背後から、えも言わぬ威圧感が出現した。
「こんにちは白黒さん。今日はいいお天気ね(怒)」
「え、あ、いや、その、こ、こんにちは……」
「ちょっとこっちへ逝らっしゃい」
「う、うわぁぁあああ。た、助けてアリス!」
 た、助けてアリス!?
 ……でも、こんな場面で頼られても嬉しくない。
「自業自得よ」
「そんな薄情なぁぁぁあああああああああ!」
 断末魔と共に魔理沙はスキマに逝った。
「ご愁傷様」
 そう言って、霊夢は暢気に茶を啜った。
 私も喉が渇いたので、お茶を一杯戴こうとした。
 そのとき――

 ――聴こえるかい聴こえるかい。
 ――この声が聴こえるかい。
 ――ぎゃあぎゃあ言ってるだろう。
 ――ぼくの産声だよ。
 ――これが聴こえるかい。
 ――聴こえるかい聴こえるかい。
 ――この音が聴こえるかい。
 ――どしんどしん鳴っているだろう。
 ――ぼくの足音だよ。
 ――これが聴こえるかい――

 声が、響いた。
「え?」
「なに、今の?」
 どうやら、霊夢にも今の声が聴こえたみたいだから、幻聴じゃない。
 この声は、一体何処から?
 誰が?

 ――ぼくは秋。
 ――生まれることの無かった秋。
 ――生まれることが出来なかった秋。
 ――ぼくは秋。
 ――死ぬことの無かった秋。
 ――死ぬことが出来なかった秋。
 ――何故ならぼくは、存在しなかったから。
 ――存在したくても、存在出来なかったから。
 ――何故?
 ――何故?
 ――何故――
 ――誰か、この問いに、答えてよ――

 ――ぼくはどうして、居ないの――?

 これは、まさか、あの石から発せられている!?
 これは、この石の声?
 だとしたら、どうして突然、こんな声が聴こえるように?
「悲しい、声ね」
 霊夢が、哀しそうに言った。
「うん」
 生まれなかった秋。
 存在しなかった秋。
 何故? 如何して?
 そんなの訊かれても、解らないわよ。

 ――教えてよ教えてよ。
 ――教えてくれなきゃ。
 ――この世界の秋を殺すよ。

 瞬間、木々に、森に、世界に、色が消えた。
 え? 色が、消えた?
 色鮮やかに紅葉していた木々から、色が、消えた。
 それだけで、世界に、色が消えた。
 黒白こくびゃく

 ――秋が無くなった。
 ――困るだろ。
 ――困るよね。
 ――大丈夫。
 ――ぼくが今、生まれてあげるから――

 その声が終わると共に、石が、割れた。
 そして、色が戻った。
 いや、違う。これは、元の色じゃない。
 元の秋じゃない。
 こんな禍々しい紅、この世界には存在しない。
 こんな秋は、知らない。

「何なのよ一体」
「解らない。解らない、けど」
 けど、でも、これは、異変。
「あーもう。厄介なの連れてきたわね」
 流石は霊夢。こんなときでも至って冷静だ。それは、私も素直に感心する。
「知らないわよ。この世界にもう在ったんだもの」
 でも、憎まれ口は返してしまう私なワケで。
 ……だから、魔理沙も、霊夢も、私なんかを頼らない……。

 ――これが、世界。
 ――これが、秋。
 ――これが、ぼく。
 ――これが、ぼく!

「うるさい!」
 私が、怒鳴った。
 普段、そんなに声を荒げることがない私が、怒鳴っていた。

 ――誰? ぼくの邪魔をするのは。

「何挑発してるのよ」
「う……」
 そんなこと言っても、もう後の祭り。この声の主の姿は見えないけど、でも、敵意を私に向かって放っていることは解る。
 ピリピリと。
 ビリビリと。
 心地悪い敵意。

 ――君は、ぼくの邪魔をするの?

「ええそうね。貴方が何者か解らない以上、排除させてもらうわ」

 ――ぼくは秋だ。そう言った。

「なら秋=B戻しなさい」

 ――え?

「この世界の秋を、戻しなさい」
 何時までも、こんな禍々しい秋で良い筈がない。でも、どうすれば戻るのか。いや、どうすればこの秋が居なくなるのか。それを考えないといけない。
「私達の秋を、返しなさい!」
「……アリス、貴女ってこんなに熱血だっけ?」
「茶化さないでよ。折角の決め所なんだから」
「ああ。ごめん」
 それに、それになにより。
 こんな秋じゃ、折角魔理沙が採ってきてくれた松茸が、美味しく食べられないじゃない。

 ――嫌だ。折角、折角ぼくはここに居るのに、
 ――戻るなんて、絶対に嫌だ!
 ――此処はぼくだ。ぼくの秋だ。もう、ぼくの秋なんだ。

 辺りの木々がざわめき、木の葉が一斉に飛び散り、私の方に向かってきた。
 木の葉乱舞。かわせる数じゃない。
 なら、打ち落とすまでよ。
「人形たち! お願い!」
 七体の人形を出現させ、木の葉を打ち落とす。

 ――な!?
 ――なら、次だ!

 再び木の葉乱舞。
 私もさっきと同じ方法で対処する。

 …………、
 ………………、
 ……………………。

 何回目の木の葉乱舞だろう。
 何回打ち落としたか解らないけど、お互い決定打がないので、無限回廊に陥ったように感じる。
 木の葉乱舞は全て叩き落とせる。でも、相手の姿が見えないので、私から攻撃できない。
 防戦一方。
「ねぇアリス」
「なによ」
 専ら戦っているのは私なので、霊夢はケロッとしていた。
「このままやっても、消耗戦にしかならないから、何か手を考えないと負けるわよ」
 そんなことは言われなくても解っている。
 でも、姿が見えないやつを、どうやって?
「というわけで、まぁ、私に考えがあるから、もう暫く粘ってて」
「え? ちょっ。霊夢?」
 そう言って、霊夢は――

「宴会やるわよー! 飲み放題! 鬼さんこーちーらー!」

 変なことを叫んだ。

「呼ばれて飛び出てじゃんじゃかじゃーん。お酒は宴会の為にある。私の80%はお酒で出来ている。世界は宴会で出来ている! 宴会の幹事といえばこの私! 伊吹萃香、大・登・場ぅ〜〜!!!」

 鬼が出た。

「で、宴会は?」
 暢気な鬼だ。
「あ〜、宴会は、これが終わった後にやるから、ちょっと手伝って」
「これ? ああ、この変な妖気のこと? いいけど、何するの?」
 そうそれ。霊夢はこんな鬼を呼んで何をする気なのかしら。
 伊吹萃香。この鬼の能力は……。
「あ、そうか。霊夢、頭良いわね」
「いや、それ程でも」
 あの能力なら、ひょっとしたら、秋を萃められる。
 もし萃めれたら、それを叩けばいい。
 密と疎を操る程度の能力。
「萃香! ここら辺に散漫している、禍々しい秋を一箇所に萃めて!」
「え? ええ? なんで? 話が解んないんだけど……」
「後でお酒おごるから!」
「了解であります」
 最近の鬼は酒で買収できるみたいです。安くなりました。お買い得です。
 あなたのご家庭にも是非一頭。
 って、そんな馬鹿なことを考えてるんじゃなくて、……萃めれたなら、そのときは、叩く。
 ……なんだけど、困ったわね。私の呪符で、強力なのなんてないのよね。なんでこんなときに魔理沙が居ないのよ。

「秋よ。禍々しい秋よ! この指とーまれ!」

 そして、世界はざわめいた。
一様に渦を巻く。
一様に渦が巻く。
それはまるで竜巻の様に。
それはまるで螺旋の様に。
うねりをあげる。
生きているように。
生きているかのように。
それは、萃まった。
 同時に、世界はまた、黒白へと戻った。

「真っ赤な、球……、いえ、弾」
 紅弾。
 アカは、この世で一番ツヨイイロ。
「萃まったはいいけど、これは、どう……」
 どう見たって、ヤバ気なオーラが凝縮してるのが解る。
 マジで、ヤバいわよ、此れ。
「いくわよアリス。あの弾に向かって、全力の弾幕を放つのよ」
「それは、……」
 それは、解っている。
 でも、全力で、全力でやって、それで、それで……。
 それで駄目なら、どうするの?
 全力でやって駄目だったなら、もう私達に、次は無い。
 最初の一回にして最後の一回。
 初弾幕ファーストプレイにして終弾幕ラストスペル
 そんなの、そんなの、私は、私には……。

 出来無い――

 だって、今まで、全力なんて、出したことが無いんだから。
 だって、今まで、本気なんて、出したことが無いんだから。
 私には、無理だ。
 無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理で無理だ――
「何してるのよ! 萃香が秋を留めている間に、アレを何とかしないといけないのよ。今動けるのは、私とアリスしかしないんだから、しっかりしてよ!」
 解ってる。そんなこと、解ってる! でも、でも、無理だから。
 だから、どうしようも無いじゃない。
 人が居ないから。私しか居ないから。だから私を頼るなんて、そんな時ばっか、私を頼らないでよ――!
「私は霊夢と違って強くないの! あんなものを倒せるほど強力な攻撃なんて持ってないの! だから、だから、だからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだから無理なの!
 私じゃ、倒せない――」

 パンッ

 頬が、じんじんした。
「え?」
 何が起こったのか、一瞬解らなかった。
 何が怒ったのか――一瞬解らなかった。
 頬が、じんじんした。
 私の頬、、、が、じんじんした。
「え?」
 そして、何が起こったのか、理解した。
 そして、何が怒ったのかも、理解した。
「霊、夢……」
 博麗霊夢が、私を平手打ちした。
「れ、いむ、……何す……」
「ふざけた事言ってるんじゃないの! 最初にあの秋≠どうにかしようと言ったのは貴女なのよ! それが、それが何で急に弱気になるの!

 何が、私よりも強くないよ! ふざけないで!」

「な!?」
 私は、霊夢よりも強くない。そんなの、解りきってることじゃない。
 春の異変のとき、私は、貴女に勝てなかったんだから……。
「アリスは確かに、強い者と戦おうとしない。いつも、全力で戦おうとしない。本気で戦おうとしない。それは、知ってる。アリスはいつも、負けたときの言い訳を残している、、、、、、、、、、、、、、、
「そ、……そうよ! 私は、本気でなんか戦わない。全力でなんか戦わない。強い者とは戦わない。だって、それで負けたら、もしも負けたら――」
 次が無いから。
 それで、終わりだから。
 終わるのは、嫌だから。
 だから、だから――!
「だったら何で永夜異変のとき、あんなに必死だったの?」
 ……え――?
「何で永夜異変のとき、永遠亭に行ったの? どうして永琳や輝夜と戦ったの? それに、それに――

 どうして貴女は、、、、、、、私とも戦ったの、、、、、、、

 私を強いと思うのなら、どうして私と戦ったの?」
 それは、そ、それ、は……。
 偽物の満月あんなものを、放置するよりは、マシだと、思った、から、で。
 それで私は、戦った?
 それで私は、戦えた?
 そう、なのかな。
 そう、なのかな?
 どうなのだろう。
 でも、そうだ。確かに私は、
 ――戦った。
 永遠亭の人たちと。
 霊夢と。
 強者と――!
「アリスは私と戦える。永夜異変のときは、私を突破してったくらいなんだから、だから、弱くなんかないんだよ。アリスは、弱くない。強いんだ。貴女は、強い人。
 だから、だからもっと、

 もっと自信を持って、、、、、、、、、

 アリスは強い。
 私が、博麗霊夢がそう言うんだから、、、、、、、、、、、、、間違いない、、、、、

 涙が出るかと思った。
 でも、目の周りは濡れていない。
 でも、それでも――
 涙が出たかと思った。

 幾ら言われても、私の基本姿勢が変わることはないだろう。この先何が起ころうと、そのスタンスを変えるつもりはない。
 けど、でも。
 今回だけは、変えても良いと思った。
 今回だけは、変わろうと思った。
 今回だけは、戦うと決めた。
 霊夢が私を、認めてくれていたことが解ったから。
 ちがう。そうじゃない。
 霊夢が私を対等だと言ってくれたから。
 だから、肩を並べて、――戦える。
 一緒に戦える。
 それは、――喜び。

「ごめんなさい霊夢。もう、大丈夫だから。だから、アレを倒すわよ」
「そうこなくっちゃ!」
 そして、私達は、ありったけの力を込めて、必殺技を放った。
 目標は、アカイイシ。
「追い来なさい! 夢想封印!」
「解き放て! 上海人形!」
 曲線と直線の二重攻撃が、紅弾に直撃した。

 ――う、うぉおおおおおお。
 ――こ、こんなもので、負けるものか。
 ――ぼくは、ぼくは、こんなところで、コンナトコロデ!
 ――消えたくないんだぁ!!!!!!!!!!!!!!!

「う、うそぉ!」
 押し返されている。
 私達は、まだ攻撃を放ち続けているけど、それに、耐えている!
 もし、最後まで耐えられたら。終わり。
 次は、無い。
 だから、全力なんて出したって……。
 違う! そうじゃない!
「うぁああああああああああああああああああああ! 諦めない! 放ち続けるわよ! 緩めることなく、最後まで、いくわよ上海人形ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
 私も霊夢も、決して緩めることなく、力を放ち続けた。
 でも、それでも。
 均衡状態は崩れない。
 萃香が秋を留めて、私と霊夢が技を放つ。それでも、均衡状態。
 でも、もう此処には私達しかいない。この均衡状態はずっと続き、そしていつかは。
 私達の、力が尽きる。
 そうなる前に、何とかしないと。
 でも、でも。
 均衡状態は、崩れない。
 均衡状態は、崩せない。
 打つ手が無い。
 これで、終わってしまう。
 これで、
 これで、
 終わり――なの?
 そんなの、
 そんなの――!

「諦めるなアリス。今お前の隣には霊夢が居る。それに、それに何より、お前の隣には」

 懐かしい、声がした。
 希望の――声がした。

 愛しい、、、――声がした、、、、

お前の隣には、、、、、、ずっと前から、、、、、、この私が居る、、、、、、

 霧雨魔理沙の、、、、、、声がした、、、、

 私の隣には、、、、、魔理沙が居る、、、、、、
 そうだ。だから、私は戦えた。
 永夜異変のときも、隣に魔理沙が居たから戦えた。
 だから私は戦える。
 私は、独りじゃない。
「いくぜアリス!」
「ええ、魔理沙!」
 そして、そして私の人形は、一体じゃない、、、、、、
「ぶっ放すぜ! マスタァースパァァァァァァーク!」
「撃ち抜けぇ! 蓬莱人形ぉぉぉぉおおおおおおお!」

 二重の直線が、アカイイシに直撃し、そして――

 ――な、なぁ!?
 ――そ、そんな!
 ――そんな馬鹿なぁ!
 ――ぼくが、ぼくが!

 ――ぼくが、負けるなんて!

 そして、アキノイシを、貫いた。
 秋の石を――貫いた。
 秋の意志を、貫いた。

 ――ぼくが、消える。
 ――ぼくが、消える。
 ――ここでも、ぼくは、消える。
 ――存在、出来無い。
 ――畜生、畜生ぅ!

「消えることはないわ」

 ――え?
 ――誰?

「私は八雲紫。貴方を、救う者よ」
「ちょ、紫! 救ってどうするのよ! 折角倒したのに」
 何を言い出だすのだろうこのスキマは。
 これで、異変は解決なんだから。これ以上、何もする必要は……。
「じゃあ訊くけど、この黒白の世界を貴女達はどうする気だったの?」
「「「え?」」」
 三人の声がハモった。
「この黒白の世界って、そいつ倒せば戻るんじゃないの?」
「そんな単純なわけがないじゃない。貴女達、この秋くんが、何て言ったか覚えてる?」
 え、えっと、えっと……。
 確か、この世界の秋を、どうとか。
「この世界の秋を殺す、、って言ったのよ。だから、幻想郷にもう、秋は無い」
「「「な!?」」」
 またまた三人の声がハモった。
 そういえば、萃香だけは、大して驚いていないみたいだけど。解ってたんだろうか。このことが。
「だから、新たな秋≠ェ必要なの」
 それを、アレにやらせるというのだろうか?
「ねぇ、秋くん。君は確かに可哀想な存在。君が生まれるはずだった世界は、秋を迎えることなく滅んだのだから。だから君には、居場所が無い。でも、だからって、それが理由で何をやってもいいってことにはならない。幻想郷の秋を無くしていいことにはならない。
 だから君は、、、、、償わなくちゃならない、、、、、、、、、、この世界の、、、、、として、、、

 ――……ぼくに、それが、出来ると?

「出来るんじゃない。やるのよ」

 ――……ぼくは、でも、ぼくは、この世界に……。

「迷惑をかけた、って言いたいのでしょうね。でも、大丈夫よ。何故なら此処は幻想郷だから。人間も妖怪も幽霊も、果ては月の民まで入り混じる、平和な世界だから。
 だから、君くらい、簡単に受け入れるわ」

 ――…………。

「君は秋≠ノ成りたかった。そして、この世界は君を秋≠ニして受け入れる。だから、だからもう、
 そんな遣る瀬無い気持ちを持たなくてもいいのよ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 ――…………あ、ああ!
 ――……なんて、これは、
 ――これは、なんて……。

「それは、嬉しい、、、って、言うのよ」

 ――なんて、嬉しいんだ――

 アカイイシから、禍々しい気が、嘘のように消えた。
 そして、清々しい気が、満ち始めた。

 ――ありがとう。ぼくは、此処で、やっと。
 ――やっと、生まれることが出来る――
 ――ありがとう。幻想郷――

 パチンと、萃香は指を鳴らした。
 そして、アキノイシは、霧散していった。

「はじめまして。これから、よろしくね」

 紫が、そう呟いて、そして、そして――

 世界に、色が戻った。
 花咲爺さんが、灰を撒き、花を咲かせたように。
 秋の石の爽やかな粒子は、木々に、森に、世界に、色を付けていった。
 色鮮やかな、秋の色。
 色取り取りな、紅葉の世界。
 なんて綺麗な、自然の色。
 この美しい世界が、幻想郷だ。

「じゃ、世界もこんなに綺麗に色鮮やかになったことだし、宴会やろ!」
 言ったのは勿論萃香だが、此処に居る誰もがそれに同意した。
「じゃあ、みんなを呼ばないとな」
「はぁ、またうちが会場になるわけね」


 そしていつもの面子が揃って、宴会は始まった。
 みんな、この秋に何も疑問を抱いていない。
 みんな、何ともなしに受け入れている。
 ただただ普通に、接している。
 この世界は、綺麗なだけじゃない。
 この世界は、とても優しい。
 この優しい世界で、私は独りじゃないことを知った。
 みんな独りじゃないことを知った。
 それを知るきっかけになったのは、この秋だ。
 こちらこそ、ありがとう。

 私は世界あきに、微笑みかけた。

 はじめまして。こんにちは。
 これから、よろしくね。


Intention of autumn is Full-bloomed.


後書き

 2006年にあったまんがまつり用に書いた作品。
 初めて書いた東方SS。
 作成日見たら2005年だって。
 うーん、若いなぁ。


2005年11月14日――作:mitsuno
原作:東方シリーズ