Laizthem



□□ webNovel

・「貴女に恨みはないけれど」(THE IDOLM@STER DS)



 アイドルなんかに、するつもりはなかった。
 ううん、違う。それは正確じゃない。
 アイドルとして成功させるつもりなんてなかった。
 貴女を初めて観たのはネットの中。そこでは貴女が楽しそうに嬉しそうに踊っていた。
 周りから、ちやほやされていた。
 私を蔑んだネット住民に、ちやほやされていた。
 それが、きっかけ。

 私の中の、何かが壊れた。

 どうしてこいつは、迫害されていないんだ。
 どうしてこいつは、中傷されていないんだ。
 どうしてこいつは――認められているんだ。
 私はネットに殺された。
 rioraはネットに殺された。
 それなのになぜ、こいつは殺されない。

 ネットが殺してくれないのなら、私が殺してやろうと、そう思った。
 完全なる逆恨み。
 彼女に何の恨みもないのに。
 ただ、ネットにいるだけで、祝福されているだけで、私の反感を買うには充分で。
 だから私は、そんな気持ちの下で、彼女にメールを出した。

 リアルアイドルをやってみないかって。

 現実を見せるつもりだった。
 どうせこんな引きこもり、大成するはずがない。そう思っていた。
 何もできないポッと出のアイドルが、現実からの非難を受けるがいい。
 中傷されるがいい。
 そして、ネット住民には、ネットを裏切ったと思われて、迫害されるがいい。
 現実からも、ネットからも、爪弾きにされてしまえ。

 私と同じように、居場所をなくしてしまえ。

 そんな思いで、私は彼女をプロデュースしてきた。
 してきた、そう、何一つ彼女のためになるようなプロデュースをしてこなかった。
 わざと足を引っ張り続けた。
 なのに、どうして、どうしてっ!

 彼女は成功してしまったのだろう!

 何がいけなかったのか。
 違う。
 何が良かったのか!
 結局彼女は、一流アイドルになってしまった!
 Aランクまで登りつめてしまった!
 彼女は、現実からも祝福された!
 私と違って。
 私なんかと違って!

 結局、私だけが、惨めな思いをした。
 結局、私だけが、居場所をなくした。
 もう、此処には居られない。
 彼女のそばには居られない。

 そう、彼女は、天才だったんだ。私では、敵いようがないくらいに。
 だから、お願いです。
 どうか、誰か、彼女を凹ましてください。
 どんな形でもかまいません。
 私では歯が立たなかった彼女を、どうか、打ちのめしてください。
 傷つけてください。
 それだけが、私の望みです。

 そんな思いの下、私は社長に辞表を叩きつけた。
 さよなら、私の大嫌いな人。




 数年後、お昼のワイドショーで彼女が失恋をしたことを知った。
 誰だか知らないけれど、私は心から礼を言いたい気分だった。
 ありがとう。彼女を打ちのめしてくれて。


Revenge was achieved.


後書き

 アイマスDSで、そういえば何でネット嫌いの人がネットアイドルなんて知ってたんだろう。何でネット嫌いの人がネットアイドルに執拗にメールを送ってきたんだろうと、なんだか疑問に思ってたらこんな話が思い浮かんでしまったのでした。
 うん、ありきたりだね。


2010年05月03日――作:mitsuno
原作:THE IDOLM@STER DS